「」のエッセイ①

 

 

 

 

 

 

 

 

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 ある日の大学帰り、電車の中で僕はウトウトしていた。その日は、昼休みにアカペラのバンド練習をし、その後は大学の図書館でひたすら卒業論文に取り組んでいた。それを夕方まで続けた後、大学の別校舎に移りサークルの全体会に参加。自分にしてはよく活動した日だった。
 眠気が頭の中にゆっくりと浸透してくる。開いている本の文も、文字の形を追っているだけになっている。眠たい。ただ、どうにもリラックスできない。右隣りのおっさんがこれでもかというほど足を広げて座っているのだ。腕もがっちり組まれていて、ごつい肘が僕の肩にぶっささっている。僕の姿勢は右側だけ奇妙に屈折していた。とても眠れるような状況ではない。「周りの見えないおっさんだな~、腹立つわ~」なんて頭の中で愚痴るのだが、当然それが伝わるわけはなく、おっさんは自らの最寄り駅までしっかりと足をひろげ、がっちり腕を組み切った後、何事もなかったかのように降りていった。


 電車から降りるためにおっさんが立ち上がった時、彼が紙袋を手からぶら下げていることに気付いた。サンタクロースとトナカイの絵が描かれた紙袋だった。何が入っているのかわからなかったが、クリスマスに関係のあるものが入ってそうだった。独身の中年男性がクリスマス関係のものを会社帰りに買っているイメージはあまり浮かばなかったので、なんとなくこんなおっさんにも家族がいるのだと思った。
 おっさんが降りた駅で、多くの人が降りたため電車内はガラガラになった。向かいの席には女子高生らしき女の子が2人並んで座っていた。1人は制服を着ていて、肩がけのバッグ(部活用のやつ)を膝の上で抱きながら爆睡している。時々、隣の女の子の肩に頭が衝突している。もう一人は、もしかしたら女子高生ではなかったかもしれない。私服だったからだ。ただ、彼女が開いている本は紛れもなく高校古典の単語帳だった。私服の許されている高校生か浪人生だろう。眉間にしわを寄せながら、真剣にページを捲っている。対照的な光景に笑ってしまいそうだった。爆睡している女の子は部活に打ち込んだ帰りだったのだろう。まだ、1年生や2年生なのかもしれない。もう一方の女の子は、恐らく受験生なのだろう。


 電車の中には色々な人がいる。ほとんどの人が自分の人生とは何の関わりもない人たちだ。そんなことは当たり前のことすぎる。だから、わざわざ意識することもない。でも、この日は違った。右隣りの周りの見えないおっさんの登場によって僕は当たり前すぎる事実を意識させられた。勝手な想像をしながら、それぞれの人に個々の人生があることをぼんやりと感じた。
 そんなことをしているうちに電車は終着点である僕の最寄り駅についた。向かいの受験生らしき女の子がスッと立ち上がり、電車から降りて行った。部活帰りらしき女子高生の頭は衝突する場所を失い、空中でふらついた。その感覚で停車に気付いたのか、彼女は目をこすりながら電車を降りて行った。僕は、膝に抱えていたバッグを肩にかけ電車の外に出た。妙に冴えてしまった頭に冷たい冬の風が吹き付けられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 小さい頃、小学生3、4年生の頃だろうか。僕は、クワガタとカブトムシが好きだった。どちらかと言えば、クワガタのほうが好きだったと思う。カブトムシは動きが激しかったし、臭いが強烈だった。それに比べて、クワガタは何とも言えない趣がある。綺麗な曲線、静観な佇まい。その希少性も要素の一つかもしれない。
 夏休みのある日、僕は父親と一緒に虫取りに向かった。近所に小さな栗林があり、そこでクワガタを採ることができた。昼の間に罠を仕掛けておき、その罠を虫が活発に活動する夜に確認しに行くということだったと思う。虫かごをぶら下げ夏の夜に繰り出した僕は、父親と罠が上手くいっているかどうか、どんな虫が集まっているかどうか、なんて話をしながらぷらぷらと栗林につづく坂道を上っていた。事件が起こったのはその時だった。
 なんとなく見上げた夜空にオレンジと水色の光を放つ物体が落下しているのが見えた。一瞬ロケット花火のように見えたのだが、明らかに輝き方が違う。僕が前方の夜空を見上げながら立ち止まってしまったので、父もそれに続いて夜空を見上げ、同様に空に光輝く物体を目撃した。物体は綺麗な光の道を残しながら、近くの山の斜面に静かに落下した。一連の出来事を目撃した僕と父は目撃したものが流れ星だったのか、はたまた故障した未確認生物の宇宙船だったのか話し合いながら、再度栗林へ向かった。虫取りに集中することはできなかった。クワガタもいなかった。見上げた瞬間から物体落下までのシーンが何度も頭の中で再生されていた。
 

 結局、今になってもあれが何だったのかわからない。可能性として一番高いのは、地球の周りを漂う小惑星の破片、それの少し大きいものが落下してきたというものだ。


 その頃からだと思う、宇宙が好きになったのは。宇宙に関する番組があれば必ず見ていた。BSでやっていた「コズミック・フロント」という番組(宇宙に関するテーマを専門的かつわかりやすく説明してくれる番組。地球に落下する小惑星を扱った回は僕のお気に入りで、多分今もビデオレコーダーに保存されたままだと思う)も毎週のように録画して、見ていた。中学を卒業する頃には東北大学の宇宙地球物理学科に行きたいと思っていた。高校に入って以来、自分なりに精一杯勉強した(中学校の頃に勉強をさぼっていたため、高校入学当初の僕は学校の勉強に関して言えばスーパーあほだった)。一年の進路相談では、担任に東北大学に行きたいと宣言していた。
 

 そして現在、僕はM治大学の史学地理学科で18世紀におけるキリスト教アメリカ的展開を研究している。

 


 人生何が起こるかわからない。