語りたくなる旅の思い出(NY①)

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 日常の生活を離れて、普段目にしない雄大な景色を見に行ったり、食したこともない珍味を楽しみに行ったり、旅には様々な楽しみ方がある。この記事を読み始めたあなたにも、旅先でのちょっとしたハプニングや現地の人との心温まるエピソードをもっているのではないだろうか。

 

 大学時代あまり旅行に行ったという記憶がない。「あれだけ自由に使える時間があったのになぜ」と言われると、「なぜだろうね」となってしまうのでどうしようもない。今さら後悔したところで、失われた時間が戻ってくるわけでもないので、そうだったという事実を受け止めるしかない。

 

 数少ない旅行の中でも、一番自分の思い出に残っているのはニューヨークだ。なんといっても、2回の海外旅行のうちの2回がニューヨークなのである。一回目は、ゼミの友人と行き、二回目は高校の友人と卒業旅行として行った。「せっかくなんだから別の場所に行っても」と思うのが普通なのかもしれない。僕自身も二回目の旅に出る三か月前までは、ニューヨークにもう一度行こうと思ってはいなかった。

 

 心変わりは突然に来るものだ。インスタグラムのストーリーをぼんやりと見ていたら、急に見覚えのある風景が映った。それは、JFK空港のタクシー乗り場の風景だった。ストーリーの投稿者は鈴木真海子で、iriとニューヨークに来たという内容だった気がする。その風景を見た瞬間に、JFK空港の空気やアジア系のウーバー運転手とかみ合わない会話をしたこと思い出してしまった。不思議なもので、思い出というものは溢れ始めてしまうと溜めすぎた風呂のお湯のごとくドバドバと流れ出してくる。もう一度行きたい。あの場所にもう一度立ちたい。インスタグラムを閉じた時、すでに僕は二回目のニューヨーク行きを決心していたのだ。

 

 問題は、卒業旅行同行者の友人Aこと杏さん(仮名)の了解を得ることである。一週間前まで「ハワイの島々に効率良く行くにはどうするか」と真剣に話していたやつが急に「ニューヨークに行くわ」と言い出したら、たいていの人だったら「ちょっと待て」となる。恐る恐るラインで「ニューヨークにしない?」と送ると数時間後に返信が来た。

 

 

「ええよ( ^^) 」

 

 

 そんなわけで、二回目のニューヨーク行きが決まった。

 

一日目

 朝10時の便で羽田からの出発である。当然起床も早い。5時に起きて、5時半の電車に乗る。ここで何を思ったか、電車に乗りながら僕は杏さんに「やっべぇ、今起きた」というメッセージを送った。嫌なやつである。変なタイミングで嘘をつくものだから、集合場所の池袋で待つ杏さんの顔がいくらか不機嫌に見えた。

 

 羽田に着き、チケットやポケットWi-Fiを揃える。朝食も適当にしかとっていないので、空港内の吉野家で軽い昼食をとることにした。僕はチーズ豚丼の大盛を頼んだ。余談だが、僕は数年前から吉野家に入るとこれしか頼まない。以前、吉野家で牛丼を食べていた時に明らかに不健康そうな太っちょの禿げたおじさんが嬉しそうに「チーズ豚丼!」と注文していた。この光景がなぜか脳裏に焼き付いてしまい、それ以来吉野家で注文しようとすると僕もおじさんと同じように「チーズ豚丼!」と言うようになってしまった。

 

 ひどく脱線してしまったが、吉野家で軽めの昼食を食べた僕らは一時間後に日本から飛び立った。さて、長いフライトが始まった。2時間後に機内食が出てくる。AセットとBセットが選べるわけだが、内容はカレーか天丼。昼食は吉野家である。何か渋いものでも食べたのかと言われそうなくらい渋い顔で野菜カレーを食した(ちなみに言うとおいしかった)。 

 

 ニューヨークまでは大体12時間から13時間のフライトになる。如何せん、5時間もすると何をしていいかわからなくなってくる。映画も二本観るのが限度だし、ガイドブックも散々眺めているので飽きてくる。「だったら寝ろよ」ということなのだが、飛行機で眠れないタイプなのである。持ってきた哲学の本を一時間に2,3頁という極度に遅いペースで読むも集中力を欠いて頭に何も入ってこない。

どうしよもなくぼんやりと飛行機の窓から外を見ると、街の美しい灯りがぼんやりと見えた。深い暗闇の中にポツリと浮かんでいるもの。都市といってもいいほどの灯りの集団。様々な街の風景が流れていく。この光景を見て僕は、映画「魔女の宅急便」でキキが初めて空を飛ぶシーンを思い出してしまった。

 

 長いフライトを終える。やっとニューヨークに到着である。JFK空港に降りる前にロングビーチの風景が見えた。細長いビーチの波打ち際が朝日の光を浴びて美しく煌めいている。空港から出て思いっきり空気を吸い込む。僕はまたあの場所に立ったのだ。早速、今回の宿があるジャージーシティに向かう。このジャージーシティという街は、マンハッタン島対岸にある町である。JFK空港はブルックリン区にあるので、一度マンハッタンまで行きそこからさらに対岸に渡らなければいけない。

 

 地下鉄で向かうわけだが、どうにもこの地下鉄というやつが曲者である。空港から一つ目の駅とそこから先のメトロカードを別々に買う必要があったりする。乗り放題を買ってしまえば、七日間地下鉄使い放題である。とりあえず、地下鉄でジャージーシティのニューポートという駅まで向かう。

 

 駅を出てすぐに今回の宿を見つけることができた。毎度のことなのだが、宿はエアビーを利用している。落ち着く空間と何よりキッチンを自由に使えるので現地の食材を毎日のように楽しめる。

 

 それにしても、今回借りた家は想像以上にとんでもない家だった。事前になんとなくの風景と設備の有無などは見ていたのだが、期待のはるか上をいくものだった。宿は高層マンションの35階。家の窓からはジャージーシティの風景が一望できる。おまけに、夜にはビリヤードの施設が無料で使える。あいにく冬だったので、使用しなかったが屋外プールも完備されていた。

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 とまあ、宿のすごさに圧倒されつつ、チェックインをするためにフロントに向かう。しかし、なぜかフロントがカギを渡してくれない。最初は、英語がダメすぎて話が通じていないのかと思ったがどうもそういうわけでもないらしい。フロントがそもそもホストから鍵をもらっていないと主張するのだ。これは、どういうことだとすぐさまホストに連絡すると「鍵の渡し方変えたよ、非常階段の消火栓の裏に置いといたから」という返信がきた。先に言えや。という感じだが、こちらも実はうっかりミスをしていた。てっきりチェックインの15時になっているものだと思っていたのだが、現地時間はまだ13時だったのである。つまり日本時間午前3時を示している時計を見て勘違いしていたわけである。眠れないまま13時間揺られ続け、疲れきっていたのだと思う。

 

 フロントでもぼんやりしていても仕方がないので、重いスーツケースを引きずりながらニューポートの付近を散策した。対岸からはマンハッタンのビル群を丸ごと見ることができる。以前、来たときも思ったのだがレゴブロックでつくられたような街並みだ。

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 2時間の散策を終えくたくたになった僕らは、スーパーで買った冷凍ぺパロ二ピザを食べる。なぜだかわからないが海外で食べるピザはめちゃめちゃ美味しい。疲れた体にチーズとトマトソースの甘さがしみる。その日は、疲れてしまいお互いに「もう寝よう」と早々と布団にくるまってしまった。僕たちの旅が始まった。